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- 鍼灸師を目指しているが、自分に向いているか不安な方
- 現在鍼灸師として伸び悩み、やりがいを見失いかけている方
- 「本物の鍼灸師」とは何か、その答えを探している方
もし、あなたが一つでも当てはまるなら、少しだけ私の昔話にお付き合いください。
はじめに:40人の弟子たちが見せてくれた「残酷な現実」
はじめまして。私は、信州の澄んだ空気のなかで、40年間、鍼灸治療院の暖簾を守ってきました。
この長い年月で、有り難いことに延べ数十万人の患者さんと向き合い、そして、40人以上の若き鍼灸師たちが「インターン」として私の元を巣立っていきました。
彼らは皆、同じように学校で知識を学び、同じように国家試験を突破した、優秀な金の卵でした。しかし、数年後、彼らの歩む道は大きく分かれます。
ある者は、ひっきりなしに患者さんが訪れる人気治療家となり、経済的にも精神的にも豊かな生活を送る。 またある者は、技術はあるはずなのに患者さんが定着せず、生活に困窮し、相談に来る。 そして、志半ばで鍼灸師の道を諦めてしまった者も、残念ながら一人や二人ではありません。
なぜ、これほどの差が生まれてしまうのでしょうか? 手先の器用さ? 学術知識の深さ? コミュニケーション能力?
いいえ、どれも本質ではありません。40年、40人の人生をつぶさに見てきた私が辿り着いた、残酷で、しかし希望に満ちた「たった一つの答え」。
それは、鍼灸師に向いているのは、悲しい物語を見て、すぐに涙を流せる人だということです。
なぜ「泣ける人」が、一流の鍼灸師になれるのか?
「え、泣き虫が良いってこと?」そう思われるかもしれません。 しかし、これは決して感情論や精神論ではありません。極めて実践的で、治療家としての成功を左右する、最も重要な資質なのです。
すぐに泣ける、というのは、別の言葉で言えば**「共感能力が極めて高い」**ということです。
他人の痛みや悲しみを、まるで自分のことのように感じ取れる。物語の登場人物に深く感情移入し、自然と涙がこぼれる。その繊細な心の動きこそが、鍼灸師にとって最高の才能なのです。
考えてみてください。 患者さんは、単に「腰が痛い」「肩が凝る」という物理的な症状だけで治療院の門を叩くわけではありません。
その痛みの裏には、 「この痛みのせいで、孫を抱いてやれないのが悲しい」 「夜も眠れないほどの不安と焦り」 「誰にも分かってもらえない孤独感」 といった、**言葉にならない”心の悲鳴”**が隠されています。
共感能力のない鍼灸師は、その表面的な症状だけに囚われ、マニュアル通りのツボに鍼を打つだけの「作業」に終始します。それでは、患者さんの心は動きません。身体も、本当の意味では快方に向かわないのです。
一方で、「泣ける」鍼灸師は違います。 患者さんの沈んだ表情、かすれた声、ふとした瞬間のため息から、その心の奥底にある本当の苦しみを敏感に察知します。
「お辛いですね。その痛み、本当によく分かりますよ」
その一言が、マニュアル通りの問診の100倍、患者さんの心を解きほぐします。患者さんは「この先生は、私のことを本当に分かってくれる」と心を開き、深い信頼関係が生まれるのです。
この信頼関係こそが、治療効果を最大限に高める土台となります。患者さんの心と身体がリラックスし、鍼一本一本の効果が、何倍にもなって身体に染み渡っていくのです。
技術や知識という「罠」
私が育てた40人の弟子の中にも、非常に勉強熱心で、学術知識も豊富な者がいました。しかし、彼は伸び悩みました。なぜなら、彼は患者さんを「評価・分析」する対象として見ていたからです。
「この症状は、経絡でいうと〇〇で、原因は△△だろう」
その思考に、「患者さんの辛さ」への共感は抜け落ちていました。患者さんは、無意識にその「心の壁」を感じ取ります。結果、彼の治療院の待合室が賑わうことはありませんでした。
皮肉なことに、今の鍼灸師を育てる学校では、この最も重要な「共感能力」について、ほとんど教えられることはありません。解剖学や経絡学、臨床論ばかりが詰め込まれ、まるで「頭でっかち」な治療家を量産しているかのようです。
もしかしたら、教える側の鍼灸教員自身に、その適性がないのかもしれないとさえ、私は危惧しています。
技術や知識は、あくまで道具です。大切なのは、その道具を「誰のために、どんな想いで使うのか」という心。その心がなければ、どんな名刀もただの鉄の塊に過ぎません。
あなたも「すぐ泣ける人」ですか?
もし、あなたがこの記事を読んで、胸に何かが込み上げてきたり、ご自身の経験と重なって心が動いたりしたのなら。 もし、あなたが普段から映画やドラマ、人の話に感情移入して涙してしまうことがあるのなら。
おめでとうございます。あなたには、鍼灸師として大成する、最も尊い才能が眠っています。
その才能は、どんな高価なセミナーや分厚い専門書からも得ることができない、あなただけの宝物です。どうか、その才能を信じ、誇りに思ってください。
そして、その素晴らしい才能を、決して安売りしないでください。 正しい場所で、正しい指導者のもとで、その才能を磨き上げることさえできれば、あなたは必ず、多くの患者さんを笑顔にし、自らも豊かになれる「本物の鍼灸師」になれるはずです。
おわりに:これからの鍼灸界を担う、あなたへ
私は、長野の片田舎で、ただひたすらに患者さんの痛みと向き合い、若い才能の成長を見守ってきました。私が育てた弟子たちが、日本各地で「先生のおかげで、人生が変わりました」と涙する患者さんに囲まれている姿を見ることが、何よりの生きがいです。
鍼は、一本の細い金属に過ぎません。しかし、そこに施術者の「共感」という心が乗った時、それは人の人生すら変えるほどの奇跡を起こします。
私は、これからの鍼灸業界を担う若い世代にこそ、この本質を伝えていきたいと切に願っています。技術偏重の風潮に流されず、人々の心に寄り添える治療家が、一人でも多く育っていく未来を夢見ています。
この拙いブログを読んで、何か心に響くものがあった方。 特に、現役の鍼灸師やそれを志す学生の方で、今日の話に共感してくださった方と、いつかどこかで、これからの鍼灸の未来について語り合える日が来ることを、心から楽しみにしています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
執筆者プロフィール
森上鍼灸院 院長 ヒロアキ
長野県須坂市にて、昭和61年より鍼灸院を開業。40年以上にわたり、地域医療に貢献。東洋医学の神髄は「手当て」の心にあるとの信念のもと、後進の育成にも力を注ぎ、40人のインターンを全国に送り出してきた。
【ご意見・ご感想はこちらから】 spa634k9@jupiter.ocn.ne.jp
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