急性低音障害型感音難聴(ALHL)という病名や疾患概念が提唱され、現在のように突発性難聴と明確に区別されるようになったのは、1970年代後半から1980年代前半にかけてです。
歴史的な変遷と区分けの経緯は以下の通りです。
1. 提唱と定着の歴史(いつから始まったか)
1978年(概念の提唱)
それまでは「突発性難聴(低音型)」や「メニエール病(めまいを伴わない内リンパ水腫)」などとして扱われていましたが、阿部隆らによって「急性低音障害型感音難聴(acute low-tone sensorineural hearing loss: ALHL)」という病名・概念が初めて提唱されました。
1982年(臨床的な確立)
阿部らが具体的な診断基準を定めたことで、突発性難聴とは異なる独立した一つの臨床疾患(症候群)として広く認知されるようになりました。
2000年(厚生労働省による診断基準試案の策定)
厚生労働省(当時の厚生省)の特定疾患急性高度難聴調査研究班が「急性低音障害型感音難聴の診断基準(試案)」を作成し、公的な調査研究・診療の対象として定着しました。
2012〜2015年(突発性難聴の診断基準改定による明確な分離)
厚生労働省研究班が「突発性難聴診断基準」を改定した際、参考事項として「急性低音障害型感音難聴と診断される例を除外する」という項目が明確に追加されました。これにより、診断基準の上でも両者がはっきりと区別されることになりました。
2. なぜ突発性難聴から分けられたのか?
以前は「突然起こる原因不明の難聴」として突発性難聴に分類されていましたが、詳しく研究が進むにつれて以下のような臨床的・病態的な違いが明らかになったためです。
- 障害される音域: ALHLは1,000Hz以下の低音域に限局して聴力が低下します。
- 患者像: 突発性難聴(50〜60代にピーク、性差なし)に対し、ALHLは20〜30代の若年女性に多く発症します。
- 経過と予後: 突発性難聴は人生で1回きりで再発しないのに対し、ALHLは再発・変動を起こしやすい(また、一部はメニエール病へ移行する)が、初期治療での改善率・予後は比較的良好です。
- 病態: 突発性難聴(循環障害やウイルス感染が推定)と異なり、内耳の内リンパ水腫(水ぶくれ)が主な病態に関与しています。
このように、治療方針や経過の予測(予後)が突発性難聴とは大きく異なるため、1980年代以降に独立した疾患として扱われるようになりました。
3. 鍼治療がとても効果的
私たちは40年前から、耳鼻科的な検査を行いながら鍼治療に取り組んでいた数少ない鍼灸院だったため、とても治りやすい低音型の突発性難聴があるということを知っていました。
ただし、急性低音障害型感音難聴でも、お薬が効きにくかったり、繰り返して悪化したりするケースもあります。そういった場合は、鍼治療がとても効果的です。イソソルビド(イソバイド)を2週間程度飲んでも、効果がなかったり、発症を繰り返したりする場合は鍼治療をご検討ください。