耳管開放症(じかんかいほうしょう)の西洋医学的な治療は、患者さんの身体への負担(侵襲性)が少ない「保存的治療(生活指導・処置・内服)」から段階的に進め、十分な改善が得られない難治例に対してのみ「外科的治療(手術)」を行うステップアップ方式が基本となります。
西洋医学で行われる主な治し方とアプローチを分かりやすく解説します。
第1段階:生活指導・応急対処法(治療の基本)
耳管開放症の治療において、最も重要で最初に行われるのが病態の理解と生活習慣の調整です。
- 病態の理解と安心
自分の声や呼吸音が響く仕組みを正しく理解し、「失聴(耳が聞こえなくなること)につながる病気ではない」と納得するだけで強い不安が和らぎ、症状を自身でコントロールできるようになる例が多く存在します。
- 体調管理・生活習慣の改善
過度のダイエットによる急激な体重減少(やせ)の防止、過労やストレスの回避、十分な睡眠、脱水予防のためのこまめな水分補給が指導されます。
- 症状が出たときの体位・物理的対処(応急処置)
症状が出現した際は、仰臥位(横になる)や頭部前屈(お辞儀の姿勢)をとることや、手やスカーフ・ネクタイで首元を軽く圧迫(スカーフ療法)することが有効です。首や耳管周囲の静脈網(翼突筋静脈叢)に血液が集まって充血し、耳管が外側から物理的に押し潰されて閉じるため、即座に症状が収まります。
- 【最重要】鼻すすりの絶対禁止
不快感を消すために無意識に行う「鼻すすり(鼻すすりロック)」は、中耳を強烈な陰圧にして鼓膜を凹ませ、滲出性中耳炎や中耳真珠腫といった重大な耳疾患を引き起こすため、絶対に行わないよう指導されます。
第2段階:保存的局所処置・薬物療法(外来治療)
生活指導だけでは症状が十分に治まらない場合、外来で負担の少ない処置や薬物内服が行われます。
- 生理食塩水点鼻療法
仰臥位または座位で頭部を後ろに傾け、患側を下にして生理食塩水を点鼻する方法です。点鼻液が耳管の出口(耳管咽頭口)に流れ込んで湿潤・狭小化させることで、一時的に空気や音の通り抜けを防ぎます。副作用や使用制限がなく、高齢者等で約6割の有効性が報告されています。
- ルゴールジェル注入療法
希釈したルゴール液(複方ヨード・グリセリン)を加えた保湿ジェルを、鼻から耳管内腔へ注入する処置です。ジェル状で局所に留まりやすく、粘膜を一時的に膨隆させて開放症状を抑制します。また、手術に進む前の有効性判定(耳管閉塞試験)としても用いられます。
- 内服薬(薬物療法)
耳管周囲の末梢血流を増加させる作用や抗ストレス作用を期待して、漢方薬(加味帰脾湯や補中益気湯など)やATP製剤(アデホス等)が処方されることがあります。
第3段階:外科的治療(手術療法・難治例への適応)
6か月以上の保存的治療を行っても自声強聴や耳閉感が改善せず、日常生活に強い支障をきたしている難治性・重症例(確実例)に対して手術が検討されます。
- 経鼓膜換気チューブ留置術
鼓膜を切開して小さなチューブ(グロメット)を留置する手技です。中耳の圧力変化を外に逃がし、鼓膜の動揺や不快感を軽減します。特に耳管の開放度が比較的軽度で、鼻すすり癖を伴う「鼻すすり型耳管開放症」に対して高い有効性(約75〜90%以上)を示します。
- 耳管ピン挿入術(Kobayashi plug)
鼓膜切開口から、長さ約23mmのシリコン製「耳管ピン」を挿入し、耳管内腔(耳管峡部)を物理的に塞ぐ最新の低侵襲手術です。2020年に薬事承認され保険適用となっており、臨床成績や治験で約80%の高い改善率が確認されています。
- その他の手術療法
患者自身の腹部脂肪やコラーゲンなどを耳管粘膜下に注入して内腔を物理的に狭くする耳管粘膜下注入術、耳介軟骨等を用いて鼓膜を補強する鼓膜補強術、非常に重症な難治例に対する耳管結紮(けっさつ)術などがあります。

まとめ
カラダ本来の治癒を目指している鍼灸師としては、外科的な治療は避けたいものです。なぜなら、術後症状が残ることがあるからです。
もっと簡単にいうと、そこいらを歩いている健康的な高校生に、その外科治療をすれば、おそらく一生術後症状に悩むからです。これは西洋医学的な発展を否定するものではなく、術後症状が残っても現状と比べてどちらが調子が良いかという選択になるからです。
耳管開放症は、自分の生活を見直すだけでほとんどが良くなる疾患です。それでもお薬の治療で良くならなかったら、鍼治療もお力になれると思うのでご検討ください。
