更年期に突然始まる舌の痛み、それは舌痛症かもしれません
更年期を迎えて「舌の先がヒリヒリして痛い」「やけどをしたような感覚が続く」このような症状で悩んでいませんか?実は、これらは更年期に特有の「舌痛症」という症状の可能性があります。
舌痛症は決して珍しい病気ではありません。閉経後の女性の約15%、つまり6~7人に1人が経験する症状です。さらに驚くべきことに、男性と比べて女性の発症率は8~10倍も高く、まさに更年期女性特有の悩みといえるでしょう。
あなたにもこんな症状はありませんか?
朝起きた時から舌の先がピリピリしていて、まるでやけどをしたような痛みが続いている。でも、鏡で見ても舌に赤みや傷などの異常は見当たらない。そんな不思議な痛みに悩まされていませんか?
興味深いことに、この痛みは食事をしている時や、テレビを見たり本を読んだりして何かに集中している時には不思議と和らぎます。しかし、夕方から夜にかけて再び痛みが強くなってくるのです。
このような症状があれば、更年期による舌痛症の可能性が高いといえます。
なぜ更年期になると舌が痛くなるのでしょうか?
女性ホルモンの急激な変化が引き金
更年期というのは、女性にとって人生の大きな転換点です。40代後半から50代半ばにかけて、長年女性の体を支えてきた女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が急激に減少します。これまで毎月規則的に分泌されていたホルモンが、まるで蛇口を急に閉めたように減ってしまうのです。
実際の研究でも、閉経後の舌痛症患者では、唾液中の卵胞ホルモンが明らかに減少していることが確認されています。つまり、舌痛症は「気のせい」や「年のせい」ではなく、医学的にきちんとした原因がある症状なのです。
エストロゲンが減ると体に何が起こるのか
エストロゲンは、女性の体のあちこちで重要な役割を果たしています。舌痛症に関係する変化を見てみましょう。
お口の中が乾燥しやすくなります
エストロゲンは唾液を作る唾液腺にも影響しています。ホルモンが減ると唾液の分泌量が減り、お口の中が乾燥しがちになります。唾液には口の中を清潔に保つ大切な働きがあるため、これが減ると細菌が繁殖しやすくなり、舌の痛みにつながることがあります。
痛みを感じる神経が敏感になります
ホルモンバランスの変化は、脳の痛みを調整する機能にも影響を与えます。普段なら感じないような軽い刺激でも、痛みとして感じるようになってしまうのです。
ストレスに敏感になります
更年期は、子どもの独立、親の介護、夫婦関係の変化など、人生の様々な変化が重なる時期でもあります。ホルモンの減少により、これまで以上にストレスを感じやすくなり、それが舌の痛みを強くする要因となることがあります。
更年期の舌痛症にはどんな特徴があるのでしょうか?
年齢による特徴
舌痛症は圧倒的に更年期以降の女性に多く見られます。特に40歳後半から50歳代にかけて発症することが最も多く、これは閉経前後の時期と重なります。若い女性や男性に発症することは非常に稀で、明らかに更年期と関連のある症状といえるでしょう。
痛みの特徴
舌痛症の痛みには独特な特徴があります。多くの場合、舌の先端や両端に症状が現れます。痛みの感じ方は人それぞれですが、「ヒリヒリする」「ピリピリする」「やけどをしたみたい」「チクチクする」といった表現をされる方が多いです。
不思議なことに、この痛みは食事をしている時や何かに夢中になっている時には軽くなります。逆に、一人でボーッとしている時や、夕方から夜にかけて強くなる傾向があります。また、痛む場所が日によって少し移動することもあります。
一緒に現れることが多い症状
舌痛症だけでなく、お口の中が乾燥する、味がわかりにくくなる、口臭が気になるといった症状も一緒に現れることがよくあります。これらも全て、エストロゲンの減少と関係している症状です。
舌痛症かどうかを確認してみましょう
ご自身の症状が更年期による舌痛症かどうか、簡単にチェックしてみませんか?
基本的な症状について
舌の先端がヒリヒリ・ピリピリ痛みますか?やけどのような灼熱感がありますか?痛む場所が時々移動することがありますか?食事中は痛みが和らぎますか?夕方から夜にかけて痛みが強くなりますか?
更年期に関する症状について
現在45歳以上ですか?月経周期が不規則になりましたか?急に顔が熱くなるホットフラッシュがありますか?以前よりイライラしやすくなりましたか?夜眠りにくくなりましたか?
お口の中の症状について
口の中が乾燥することが増えましたか?味がわかりにくくなりましたか?口臭が気になるようになりましたか?歯茎が下がった気がしますか?
これらの質問に多く当てはまる場合は、更年期による舌痛症の可能性が高いと考えられます。
舌痛症はどのように治療するのでしょうか?
根本的な治療:ホルモン補充療法
舌痛症の根本的な原因がエストロゲンの減少である場合、不足しているホルモンを補うホルモン補充療法が効果的です。この治療では、エストロゲンと、バランスを取るためのプロゲステロンというホルモンを組み合わせて使用します。
ホルモン補充療法の良いところは、舌痛症だけでなく、ホットフラッシュやイライラ、不眠といった他の更年期症状も同時に改善できることです。ただし、血栓症のリスクがある方や、定期的な検査を受けられない方には向かない場合もあるため、婦人科医とよく相談して決める必要があります。
痛みを和らげる薬物療法
ホルモン補充療法が難しい場合や、より早く症状を改善したい場合には、痛みを和らげる薬を使用します。
意外に思われるかもしれませんが、うつ病の治療に使われる抗うつ薬が舌痛症の痛みに効果があることがわかっています。これは、うつ症状を改善するためではなく、慢性的な痛みに対する効果を期待して使用するものです。
また、てんかんの治療薬として使われるガバペンチンやプレガバリンといった薬も、神経の痛みに効果があります。これらの薬は、痛みを感じる神経の働きを調整することで、舌の痛みを和らげてくれます。
漢方薬による優しい治療
漢方薬は、更年期の体の変化を整えながら舌痛症を改善する、体に優しい治療法です。更年期症状全体を見ながら、その人の体質に合った漢方薬を選びます。
加味逍遙散という漢方薬は、イライラや不安感が強い方に適しており、更年期の舌痛症によく使われます。桂枝茯苓丸は血行を改善する効果があり、冷えや肩こりなども一緒にある方に向いています。当帰芍薬散は、体力が落ちて疲れやすい方に適した漢方薬です。
生活習慣の改善で体を整える
薬による治療と並行して、日常生活の改善も大切です。
食事の工夫
大豆製品に含まれるイソフラボンは、エストロゲンに似た働きをするため、積極的に摂取しましょう。豆腐、納豆、豆乳などを日々の食事に取り入れてください。また、亜鉛やビタミンB群は口の健康に重要な栄養素なので、肉類、魚類、緑黄色野菜もバランスよく食べましょう。
ストレスとの上手な付き合い方
更年期はストレスを感じやすい時期ですが、適度な運動や十分な睡眠、好きなことをする時間を作ることで、ストレスを上手にコントロールできます。ウォーキングやヨガなどの軽い運動は、気分転換にもなり、睡眠の質も向上させてくれます。
自分でできる舌痛症のケア方法
唾液を増やすための工夫
お口の中の乾燥を改善するために、唾液の分泌を促すマッサージを覚えましょう。
耳の前あたりにある耳下腺という唾液腺を、円を描くように優しくマッサージします。また、顎の下にある顎下腺は、親指で下から上に押し上げるようにマッサージしてください。これらのマッサージを食事の前や、口の中が乾燥を感じた時に行うと効果的です。
食事の時はよく噛むことを心がけましょう。一口につき30回程度噛むことで、唾液腺が刺激されて唾液の分泌が促されます。ガムを噛むのも良い方法ですが、虫歯の心配がないシュガーレスのものを選んでください。
心を落ち着かせる方法
舌痛症の痛みは、ストレスや不安により強くなることがあります。心を落ち着かせる方法を身につけることで、痛みをコントロールできるようになります。
深呼吸は簡単で効果的な方法です。4秒かけてゆっくり息を吸い、8秒かけてゆっくり息を吐きます。これを5回程度繰り返すだけで、心が落ち着いてきます。
また、全身の筋肉を意識的に緊張させてから力を抜く筋弛緩法も効果があります。まず手をギュッと握って力を入れ、5秒後にふっと力を抜きます。この要領で肩、顔、足など全身の筋肉で行うと、体全体がリラックスできます。
規則正しい生活リズムを作る
舌痛症の症状を安定させるために、規則正しい生活リズムを作ることが大切です。
毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きるようにしましょう。睡眠時間は7~8時間確保できると理想的です。また、趣味や楽しいことをする時間も意識的に作ってください。好きなことをしている時間は痛みを忘れることができ、心の健康にも良い影響を与えます。
いつ病院に行けばよいのでしょうか?
早めに受診した方がよい症状
舌の表面に潰瘍や腫れがある場合、出血がある場合、食べ物や飲み物を飲み込みにくい場合は、舌痛症以外の病気の可能性もあるため、早めに受診することをお勧めします。
専門医に相談した方がよい状況
痛みが3ヶ月以上続いている場合、日常生活に支障が出ている場合、自分でケアしても改善しない場合は、専門医に相談しましょう。また、舌の痛み以外にも強い更年期症状がある場合は、総合的な治療を受けることで、より効果的に改善できます。
どの病院に行けばよいか
まず婦人科を受診することをお勧めします。更年期症状全般を診てもらえ、ホルモン補充療法などの根本的な治療を受けることができます。舌痛症に特化した治療を希望する場合は、歯科や口腔外科でも診てもらえます。心理的なストレスが強い場合は、心療内科で相談することも有効です。
舌痛症を予防するためにできること
更年期に入る前の準備
30代後半から40代前半にかけて、定期的な婦人科検診を受けて、ホルモンバランスの変化を早めに把握しておきましょう。また、この時期から健康的な生活習慣を身につけておくことで、更年期症状を軽くすることができます。
更年期に入ってからの対策
40代後半から50代前半は、体の変化に敏感になり、早めに症状に気づくことが大切です。ちょっとした不調でも「更年期だから仕方がない」と諦めずに、適切な治療を受けることで、生活の質を保つことができます。
更年期を過ぎてからも継続的なケア
50代後半以降も、定期的に体調をチェックし、必要に応じて治療を継続することが大切です。更年期症状は一時的なものですが、適切なケアを続けることで、その後の人生もより健やかに過ごすことができます。
舌痛症と上手に付き合うコツ
症状を記録する習慣をつける
毎日の症状を日記に記録することで、痛みのパターンや改善のきっかけを見つけることができます。痛みの強さを10段階で評価し、その日の体調や気分、行った治療とその効果を記録してみてください。これらの記録は、医師の診察時にも役立ちます。
家族に理解してもらう
舌痛症は見た目にはわからない症状のため、周囲の人に理解してもらうのが難しいことがあります。家族に症状の特徴や辛さを説明し、サポートをお願いすることで、精神的な負担を軽くすることができます。
前向きな気持ちを大切にする
舌痛症は改善できる症状です。同じ悩みを持つ人との交流や、新しい趣味や楽しみを見つけることで、症状があっても充実した毎日を送ることができます。小さな改善も素直に喜び、前向きな気持ちを保つことが、回復への大切な要素です。
まとめ:更年期の舌痛症は必ず改善できます
更年期の舌痛症は、エストロゲンの減少という明確な原因がある症状であり、適切な治療により改善できます。
舌痛症について知っておきたいこと
更年期女性の約15%が経験する一般的な症状で、エストロゲン減少が主な原因です。見た目にはわからない症状ですが、医学的にきちんとした根拠がある病気です。
治療の選択肢は豊富です
ホルモン補充療法による根本的な改善から、薬物療法による症状の緩和、漢方薬による体質改善、そして日常生活の改善まで、様々な治療選択肢があります。
早期対応が効果的
症状に早く気づき、適切な治療を始めることで、より効果的に改善できます。また、セルフケアも症状の管理に重要な役割を果たします。
舌痛症は決して「気のせい」や「年のせい」ではありません。更年期という女性の人生の重要な時期に起こる、きちんとした医学的根拠のある症状です。一人で悩まずに専門医に相談し、自分に合った治療を受けることで、必ず快適な毎日を取り戻すことができます。
更年期は人生の新しいステージの始まりでもあります。舌痛症という症状と上手に付き合いながら、この大切な時期を健やかに、そして前向きに過ごしていきましょう。
この記事が更年期の舌痛症でお悩みの方のお役に立てれば幸いです。症状が気になる方は、お一人で抱え込まず、お近くの専門医にご相談ください。あなたの辛い症状は、必ず改善できます。
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