
顔面神経麻痺を発症してから3ヶ月。思うような回復が見られない今の状況は、出口のない不安を感じておられることでしょう。
実は、発症から3ヶ月という時期は、医学的に見て「回復のプロセス」と「後遺症のリスク」が交差する非常に重要なターニングポイントです。なぜ長期化しているのか、そして今、何に気をつけるべきなのか。最新の知見に基づいた事実を整理して解説します。
1. 3ヶ月経っても治らない理由
多くの顔面神経麻痺は数週間から3ヶ月以内に改善の兆しが見えます。しかし、3ヶ月を過ぎても変化がない場合、神経の損傷が、より深いレベルに及んでいる可能性が考えられます。
神経再生には「物理的な距離」がある
神経は一度傷つくと、耳の奥から顔の筋肉に向かって、1日にわずか1mm程度の速さでゆっくりと再生していきます。耳の奥にある損傷部位から顔の筋肉までは約90mmの距離があります。そのため、どれほど順調に再生が進んでいたとしても、電線が筋肉に到達して動きが出始めるまでには、物理的に3〜4ヶ月の月日が必要なのです。
重症度の指標(ENoG検査)の振り返り
発症初期の電気生理学的検査(ENoG)で、神経の反応が10%以下(一桁)であった場合、完治までに6ヶ月以上を要するか、あるいは完全な回復が難しいケースが多いことが判明しています。3ヶ月で治らない現状は、あなたの努力不足ではなく、神経のダメージがそれほど深かったことを示しています。
2. 後遺症は「いつから」出現するのか
麻痺が改善し始める3〜4ヶ月頃は、同時に「後遺症」が出現し始める時期でもあります。これは麻痺が治らないこととは別の、新しい段階への変化です。
神経の「混線」が引き起こす症状
神経が再生する際、本来つながるべき筋肉とは別の筋肉へ誤ってつながってしまうことがあります。これを「迷入再生(過誤支配)」と呼びます。
- 病的共同運動: 口を動かすと目が勝手に閉じる、目を閉じると口角が上がるなど、意図しない筋肉が一緒に動く現象。
- 顔面拘縮(こうしゅく): 安静時でも顔がこわばり、引きつって見える状態。
- ワニの涙: 食事の際に、唾液が出る代わりに涙が出てしまう現象。
3ヶ月までに治らなかった重症例では、神経の修復範囲が広いため、この「混線」が起こる確率が高くなります。
3. 今後の経過と対策:4ヶ月目からの「正しいケア」
発症から3〜4ヶ月が経過し、麻痺が長期化している段階では、単に「動かない筋肉を動かす」という考え方を捨てなければなりません。ここからは「動かないことへの対策」から「異常な動き(後遺症)を最小限に抑える対策」へと、ケアの目的を切り替える必要があります。
① 強力な自主トレーニングの「禁止」
最も注意すべきは、焦りからくる過度な運動です。鏡の前で思い切り目を閉じたり、口を強く動かしたりするトレーニングは、再生途中の神経に過剰な負荷をかけ、神経の混線(迷入再生)を助長します。これが病的共同運動や拘縮を悪化させる最大の要因となるため、医学的に見てこの時期の強い筋力トレーニングは、かえって後遺症を助長する可能性があるため、避けたほうがよいと考えられています。
② 筋肉の柔軟性を保つ「伸張マッサージ」
麻痺した筋肉は、動かないことで短縮し、固まっていきます(顔面拘縮)。これを防ぐためには、筋肉を力で揉みほぐすのではなく、指の腹を使って優しく「引き伸ばす」伸張マッサージが有効です。顔の表面をこするのではなく、深部の筋肉をストレッチするイメージで、毎日短時間ずつ継続することが推奨されます。
③ 脳と表情を再学習させる「バイオフィードバック」
動きが出始めた際、意図しない動きを抑制するために、鏡を見て自分の表情を客観的に観察しながら、微細な動きを調整する訓練を行います。脳に対して「正しい筋肉の動かし方」を再教育し、神経の混線による影響を最小限に留めることが目的です。
④ ガイドラインが提案する「専門的な介入」
最新の診療ガイドライン(2023年版)では、こうしたリハビリテーションに加え、標準治療で回復が停滞している場合の選択肢として「鍼治療」についても言及されています。鍼による刺激は、神経の再生環境を整え、筋肉の過度な緊張を緩和する一助となります。「ただ待つ」のではなく、科学的根拠に基づいた外部刺激を取り入れることは、質の高い回復を目指す上で極めて合理的な選択と言えます。
4. まとめ:3ヶ月目からの「次の一手」
3ヶ月で回復が見えなくても神経は再生の途上にあります。しかし、同時に「後遺症」のリスクがピークを迎えるため、自己流のケアは非常に危険です。
最新ガイドラインでは、薬物療法で効果が不十分な場合の正当な選択肢として「鍼治療」が提案されています。ただ待つのではなく、この節目に専門的な介入を検討することが、後遺症を抑え、質の高い回復を目指すための合理的な一歩となります。
顔面神経麻痺の鍼灸外来
顔面神経の状態を、耳の反応を通して客観的に捉えるための方法です。
顔面神経の反応を確認する検査の一例
「病院での治療は終わったけれど、顔の動きが戻らない」
「後遺症が残らないかが心配」
私たちはそうした不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。
当院では、アブミ骨筋反射を確認します。顔面神経は、耳の奥にある小さな筋肉(アブミ骨筋)にもつながっています。
音に対するこの筋肉の反応を確認することで、顔面神経が刺激に反応できる状態かを知る重要な手がかりになります。
この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。
参考文献
この記事は、以下の資料に基づき作成されました。
- 顔面神経麻痺のリハビリテーション(医歯薬出版株式会社)
- 顔面神経障害(中山書店)
- 鍼灸臨床メカニズム最新科学(医歯薬出版株式会社)
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