なぜ私のベル麻痺は治らない?|専門家が教える次の一手

なぜ私のベル麻痺は治らない?|原因・症状・治療と、その先の次の一手をご紹介

「入院してステロイド治療を終えたのに、顔が動かない」

「検査の結果が良くないと言われ、手術を提案されたが迷っている」

標準的な治療を済ませた後も改善が見られないとき、強い不安を抱くのは当然のことです。いつになったら元の顔に戻れるのかと、出口の見えない停滞感の中にいる方も少なくありません。

しかし、顔面神経麻痺の回復には、医学的なメカニズムに基づいた「理由」があります。なぜ停滞が起きるのか、そして最新の指針が示す「次の一手」を整理して解説します。


1. ステロイド治療で「麻痺そのもの」は治らない

「ステロイドを打てば顔が動くようになる」という認識は、医学的には正確ではありません。

ステロイドの役割は「消火活動」

ベル麻痺やハント症候群は、ウイルス感染などによって神経が腫れ、骨のトンネル(顔面神経管)の中で圧迫されることで起こります。ステロイドの目的は、この「腫れ(炎症)」を強力に引かせることです。いわば火事の現場で火を消す作業であり、焼け落ちた電線を修理する作業そのものではありません。

神経が再生するまでの「時間差」

炎症が治まっても、神経そのものが深く傷ついている(変性している)場合、そこから神経が再び伸びて筋肉に繋がるまでには、物理的な時間が必要です。神経の再生速度は1日にわずか1mm程度と言われており、ステロイド治療後すぐに変化が出ないからといって、回復を諦める段階ではありません。


2. 検査値「一桁」が示す神経の深いダメージ

検査で「誘発筋電図(ENoG)が一桁(10%未満)」と診断された場合、それは神経の大部分が一時的に断線している「重症」を意味します。

自己絞扼(じここうやく)という悪循環

神経が腫れて自らを締め付ける「自己絞扼」が強いと、神経の変性は深刻になります。このとき、外科的に骨のトンネルを削って圧迫を取り除く「顔面神経減荷術」が検討されます。しかし、手術には適応時期の制約があり、また身体への負担から手術をしない選択をするケースも多々あります。

角膜への影響と後遺症の不安

まぶたが閉じにくくなると、角膜を傷つけ、視力に影響を及ぼす恐れがあるため、慎重な管理が必要です。しかし、患者さんにとっての最大の関心事は「いつ動くのか」「後遺症(病的共同運動)が残らないか」という点に集約されます。


3. 2023年最新ガイドラインにおける「新たな指針」

手術を選択しなかった、あるいは標準治療で十分な効果が得られなかった場合、どのような選択肢があるのでしょうか。

ガイドラインでの位置づけ

2023年に改訂された最新の『顔面神経麻痺診療ガイドライン』では、従来の急性期対応だけでなく、標準治療後の経過を踏まえた治療の考え方が示されています。

手術と同じ枠組みで整理されている治療選択肢

注目すべきは、重症例に適用される『顔面神経減荷術』と同様に、標準治療だけでは停滞しがちな回復を後押しする正当な選択肢として、鍼治療が公式に位置づけられている点です。

これは、ステロイド治療を終えたあとに回復が止まっている場合でも、手術以外に効果的な治療法があることを意味しています。


4. 誤ったセルフケアが招く「後遺症」のリスク

回復が思うように進まないと、焦りから自己流のマッサージやリハビリを始めてしまう方もいます。
しかし、顔面神経麻痺では、刺激の与え方によっては注意が必要な場合があります。

強い刺激の罠

動かない筋肉を無理に強く揉んだり、過度な電気刺激を加えたりすると、再生途中の神経が誤った方向に伸びてしまう「迷入再生」が起こることがあります。
口を動かすと目が一緒に閉じてしまうような病的共同運動は、その一例です。

正しい環境整備を

重要なのは、神経がスムーズに再生しやすい環境を整えることです。
それは単なる安静ではなく、神経の回復過程を理解したうえで、適切な刺激を選択するという視点です。
最新の指針でも、適切な物理的働きかけが神経再生を助ける可能性があることが示されています。


5. まとめ

ベル麻痺の改善が停滞しているのは、神経の損傷度合いに応じた修復プロセスが必要だからです。

病院でのステロイド治療を終えてもなお、顔の動きに変化がない場合、そこで道が途絶えたわけではありません。最新のガイドラインが示すように、手術以外の専門的なアプローチが存在します。一人で悩み続けるのではなく、客観的なデータに基づき、適切な「次の一手」を提案できる専門家に相談することをお勧めします。


顔面神経麻痺の鍼灸外来

顔面神経の状態を、耳の反応を通して客観的に捉えるための方法です。

アブミ骨筋反射を測定する様子

顔面神経の反応を確認する検査の一例

「病院での治療は終わったけれど、顔の動きが戻らない」

「後遺症が残らないかが心配」

私たちはそうした不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。

当院では、アブミ骨筋反射を確認します。顔面神経は、耳の奥にある小さな筋肉(アブミ骨筋)にもつながっています。 音に対するこの筋肉の反応を確認することで、顔面神経が刺激に反応できる状態かを知る重要な手がかりになります。

この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。

参考文献

この記事は、以下の資料に基づき作成されました。

  • 顔面神経リハビリテーション(イテルナ出版)
  • 顔面神経麻痺治癒への10の鍵(医学書院)
  • 顔面神経麻痺ガイドライン〈2023年版〉(日本顔面神経学会)

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この記事を書いた人

院長 / 吉池 弘明

頭の中は、つねに愛する家族と鍼治療のことでいっぱい。耳鼻科疾患治療への探究心が強く、日々新たな治療法を模索する「はり・きゅうの日生まれ」62歳。お医者様とは違った角度からの聴力検査と全身検査を取り入れ、のべ25万人を検査。全国から来院する患者さんへの治療成果を上げている。

院長 / 吉池 弘明

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頭の中は、つねに愛する家族と鍼治療のことでいっぱい。耳鼻科疾患治療への探究心が強く、日々新たな治療法を模索する「はり・きゅうの日生まれ」62歳。お医者様とは違った角度からの聴力検査と全身検査を取り入れ、のべ25万人を検査。全国から来院する患者さんへの治療成果を上げている。

院長 / 吉池 弘明