筋電図一桁と言われた方へ|重症の顔面神経麻痺でも回復する方法

「筋電図の結果が一桁」と言われた方へ。重症の顔面神経麻痺でも回復する方法を詳しく解説します。

「誘発筋電図(ENoG)の数値が一桁でした」

「神経の90%以上がダメージを受けていると言われ、手術を勧められた」

医師からこのような診断を下されたとき、目の前が真っ暗になるような衝撃を受ける方は少なくありません。しかし、一桁という数字は「決して治らない」という意味ではなく、医学的に見て「回復に時間が必要であり、特別なケアが求められる状態」を指しています。

今回は、重症と診断された方が、手術以外の道を選択する場合に知っておくべき回復のメカニズムと、予後を左右する「正しい過ごし方」について解説します。


1. 検査結果の理解:「ENoG一桁」は何を意味するか?

まず、医師から告げられた「一桁」という数字の医学的な意味を正しく整理しましょう。

ENoG(誘発筋電図)とは何か

ENoGは、顔面神経に電気刺激を与え、筋肉がどれだけ反応するかを「健康な側」と比較してパーセントで算出する検査です。現時点での神経のダメージ(変性)の程度を客観的に数値化する、最も信頼性の高い指標です。

10%未満(一桁)の状態

数値が40%以上であれば1ヶ月以内の完治が見込めますが、10%未満は医学的には「完全脱神経(高度麻痺)」と呼ばれる段階に相当します。これは神経線維の90%以上がダメージを受けていることを意味し、自然治癒には時間がかかる(一般的に6ヶ月以上)だけでなく、回復の過程で後遺症のリスクを伴う「重症」の段階です。


2. 手術をしない場合の回復の道筋:薬物療法の徹底

数値が厳しい場合、医師から「顔面神経減荷術(骨を削って神経の圧迫を除く手術)」を提案されることがあります。しかし、様々な理由で手術を選択しない場合、薬物療法で神経のダメージを最小限に食い止めることが最優先となります。

ステロイドと抗ウイルス薬の役割

標準治療では、発症早期(理想は3日以内)に十分な量のステロイド(プレドニゾロン等)と抗ウイルス薬を投与します。重症例では入院による点滴治療が一般的です。 目的は、神経の腫れ(浮腫)を抑え、骨のトンネル内での締め付けを一日も早く解除して、これ以上の神経変性を防ぐことにあります。


3. 「やってはいけないこと」と「やるべきこと」のリハビリ鉄則

ENoG一桁の重症例において、最も注意すべきはリハビリの内容です。神経が再生する際、本来とは違う筋肉へ繋がる「配線ミス(迷入再生)」が起こりやすいため、良かれと思った努力が逆効果になることがあります。

絶対にやってはいけないこと(禁忌)

  • 強力な顔の運動(筋トレ): 無理に目を閉じたり、口を大きく動かしたりする「百面相」のような運動は、神経の混線を助長します。「口を動かすと目が閉じる」といった病的共同運動を悪化させるため、厳禁です。
  • 低周波治療(電気刺激): 神経の誤った再生を促進し、顔のこわばり(拘縮)やけいれんを誘発する可能性があるため、避けてください。

今、優先すべき正しいケア

  • 筋伸張マッサージ: 筋肉が短縮して固まらないよう、手を使って優しく筋肉を伸ばします。
  • 温熱療法: 蒸しタオル等で顔を温め、血流を維持します。
  • 目の保護: 目が閉じにくい時期は、角膜を守るための点眼や眼帯が必須です。

4. 回復にかかる期間と見通し

ENoG一桁の場合、回復は「長期戦」を覚悟する必要があります。

動き出しは「3〜4ヶ月後」

神経の再生速度は1日に約1mmです。耳の奥から顔の筋肉まで到達するまでには、物理的に3〜4ヶ月かかります。この間、表面上の変化がなくても、神経は内側で確実に伸びようとしています。

4ヶ月目以降の変化

動きが戻り始めると同時に、意図しない動きが混じる「病的共同運動」が出現しやすくなります。この時期からは、鏡を見ながら「正しい動き」を脳に再学習させるバイオフィードバック療法へと切り替え、後遺症を最小限に抑える段階に入ります。


5. まとめ:重症だからこそ「質の高い選択」を

数値が一桁であったとしても、回復の道が閉ざされたわけではありません。大切なのは、初期の薬物療法を確実に完了させること、そして「無理な運動」で神経の再生を邪魔しないことです。

最新のガイドライン(2023年版)では、薬物療法だけでは回復が停滞している重症例に対し、回復を後押しする正当な選択肢として「鍼治療」が提案されています。ただ回復を待つだけでは不安な時期だからこそ、エビデンスに基づいた専門的な介入を検討することは、質の高い回復を目指す上で極めて合理的な選択と言えます。

顔面神経麻痺の鍼灸外来

顔面神経の状態を、耳の反応を通して客観的に捉えるための方法です。

アブミ骨筋反射を測定する様子

顔面神経の反応を確認する検査の一例

「病院での治療は終わったけれど、顔の動きが戻らない」

「後遺症が残らないかが心配」

私たちはそうした不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。

当院では、アブミ骨筋反射を確認します。顔面神経は、耳の奥にある小さな筋肉(アブミ骨筋)にもつながっています。 音に対するこの筋肉の反応を確認することで、顔面神経が刺激に反応できる状態かを知る重要な手がかりになります。

この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。

参考文献

この記事は、以下の資料に基づき作成されました。

  • 顔面神経麻痺治癒への10の鍵(医学書院)
  • 顔面神経麻痺のリハビリテーション(全日本病院出版社)
  • 顔面神経障害(中山書店)

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この記事を書いた人

院長 / 吉池 弘明

頭の中は、つねに愛する家族と鍼治療のことでいっぱい。耳鼻科疾患治療への探究心が強く、日々新たな治療法を模索する「はり・きゅうの日生まれ」62歳。お医者様とは違った角度からの聴力検査と全身検査を取り入れ、のべ25万人を検査。全国から来院する患者さんへの治療成果を上げている。

院長 / 吉池 弘明

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頭の中は、つねに愛する家族と鍼治療のことでいっぱい。耳鼻科疾患治療への探究心が強く、日々新たな治療法を模索する「はり・きゅうの日生まれ」62歳。お医者様とは違った角度からの聴力検査と全身検査を取り入れ、のべ25万人を検査。全国から来院する患者さんへの治療成果を上げている。

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