
「神経が90%以上ダメージを受けている(ENoG一桁)」
「後遺症を防ぐために、一刻も早い手術が必要だ」
病院の診察室でそう告げられたとき、どれほどのショックを受けられたことでしょうか。特に30代、40代という働き盛り、あるいは人生の転機にいる方々にとって、顔の変化は社会生活や将来への不安に直結する大きな問題です。
医師から「手術(顔面神経減荷術)」を提案され、そのリスクや入院の負担、そして「絶対に治る保証はない」という説明を聞いて、立ち止まっている方も多いはずです。今日は、専門家の視点から、手術という選択肢をどう捉え、もし「しない」と決めた場合にどう向き合うべきかを、冷静に整理してお話しします。
1. なぜ医師は「手術」を勧めたのか? 数字の意味を整理する
まず、医師が手術を勧めた根拠を客観的に理解しましょう。それはあなたの顔を思っての提案であり、決して脅かしているわけではありません。
誘発筋電図(ENoG)10%以下の意味
医師が手術を検討する最大の指標は「ENoG(誘発筋電図)」の数値です。これが10%未満(一桁)ということは、健側と比較して神経の9割以上が変性している「完全脱神経(高度麻痺)」の状態を指します。
この状態では、自然治癒に時間がかかる(動き出しまで3〜4ヶ月)だけでなく、回復しても「病的共同運動(口を動かすと目が閉じるなど)」や「顔面拘縮(こわばり)」といった後遺症が残るリスクが高いことが、医学的なデータとして示されています。
手術(顔面神経減荷術)の目的
顔面神経は耳の奥の細い骨のトンネルを通っています。炎症で腫れ上がった神経がこのトンネル内で自らを締め付けている状態(自己絞扼)を、骨を削ることで物理的に開放し、血流を改善させて神経が死んでしまうのを食い止める。これが手術の狙いです。
2. 判断のポイント:ガイドライン上の「手術」の立ち位置
ここで知っておいていただきたいのは、最新の診療ガイドライン(2023年版)においても、この手術は「弱く推奨」という位置づけであることです。
手術によって治癒率が向上したという報告がある一方で、最終的な回復結果に統計的な大差はないとする意見もあり、専門医の間でも議論が続いています。また、術後の難聴リスクや傷跡、入院の負担といったデメリットも無視できません。
つまり、手術を選ばなかったことは決して「逃げ」ではありません。医学的に見ても、「リスクを最小限に抑え、保存療法(薬とリハビリ)という別の戦い方を選択した」という、一つの立派な決断なのです。
3. 「手術をしない」と決めたあなたへ。後悔しないリハビリの鉄則
手術をしない道を選んだのであれば、大切になるのは「自己流の努力をしないこと」です。重症例だからこそ、リハビリには厳格なルールがあります。
① 【絶対にやってはいけないこと】(禁忌)
- 強力な顔の運動(百面相): 「早く動かしたい」と焦って無理に顔を動かす筋トレは、再生途中の神経に混線(迷入再生)を引き起こし、後遺症を悪化させる最大の原因となります。
- 低周波治療(電気刺激): 筋肉をピクピクさせる電気刺激は、顔のこわばり(拘縮)を強めることが分かっており、現在は推奨されていません。
② 【今、取り組むべき正しいケア】
- 待つ勇気: 重症の場合、神経が再生して筋肉に届くまでに3〜4ヶ月は「動かなくて当たり前」です。この停滞期に焦らないことが、将来の表情を守ります。
- 伸張マッサージ: 筋肉が痩せて固まらないよう、指の腹で優しく筋肉を引き伸ばす「ストレッチ」を継続してください。
- 温める: 蒸しタオル等で顔を温め、血流を維持しましょう。
4. 未来への備え:もし「後遺症」が気になったら
仮に麻痺が治りきらなかったり、後遺症が出現したりしても、そこで終わりではありません。
現在は、筋肉のこわばりを和らげる「ボツリヌス毒素(ボトックス)治療」や、形成外科による見た目の再建術(下がった眉を上げる手術など)といった「次の手」が確立されています。今の決断がすべてを決めるわけではなく、未来にも修正のチャンスは残されているのです。
5. まとめ
「手術はしない」という決断は、あなたがあなた自身の人生と身体を想って出した答えです。それを尊重し、前を向くことが大切です。
一桁という数値に絶望する必要はありません。最新のガイドラインでも、標準治療の枠を超えた専門的なサポート(鍼治療など)が回復を後押しすることが認められています。
自分の決断を信じて、焦らず、長い目でご自身の表情と付き合っていきましょう。その歩みを支える選択肢は、私たちが提案し続けます。
顔面神経麻痺の鍼灸外来
顔面神経の状態を、耳の反応を通して客観的に捉えるための方法です。
顔面神経の反応を確認する検査の一例
「病院での治療は終わったけれど、顔の動きが戻らない」
「後遺症が残らないかが心配」
私たちはそうした不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。
当院では、アブミ骨筋反射を確認します。顔面神経は、耳の奥にある小さな筋肉(アブミ骨筋)にもつながっています。
音に対するこの筋肉の反応を確認することで、顔面神経が刺激に反応できる状態かを知る重要な手がかりになります。
この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。
参考文献
この記事は、以下の資料に基づき作成されました。
- 顔面神経麻痺のリハビリテーション(医歯薬出版株式会社)
- 顔面神経障害(中山書店)
- 鍼灸臨床メカニズム最新科学(医歯薬出版株式会社)
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