顔面神経麻痺の後遺症|病的共同運動・ワニの涙を防ぐ方法

顔面神経麻痺の後遺症に多い「病的共同運動」「ワニの涙」を防ぐには?徹底解説します。

顔面神経麻痺と診断され、顔が思うように動かない日々。鏡を見るたびに「いつ治るのか」「このまま変な動きが残ってしまうのではないか」と、暗い霧の中にいるような不安を抱えておられることでしょう。

実は、顔面神経麻痺において最も大切なのは、発症直後から3ヶ月頃までの過ごし方です。この時期の「良かれと思った努力」が、かえって将来の表情を左右してしまうことがあります。

今回は、後遺症(病的共同運動やワニの涙)がなぜ起こるのか、そのメカニズムと、将来に悔いを残さないための正しいケアについて、冷静にお話しします。


1. 後遺症の正体:神経が回復する際の「混線」

麻痺が重い場合、切れた神経がつなぎ直される過程で、本来とは違う筋肉に誤ってつながってしまうことがあります。これを医学用語で「迷入再生(めにゅうさいせい)」と呼びます。

  • 病的共同運動: 「口を動かす神経」が「目を閉じる筋肉」に混ざってつながることで、食事や会話で口を動かすと、意図せず目が閉じてしまう現象です。
  • ワニの涙: 「唾液を出す神経」が「涙を出す腺」へ誤ってつながり、食事中に涙がこぼれてしまう現象です。

これらの症状は、麻痺が回復してくる発症3〜4ヶ月頃から現れ始めます。つまり、今この瞬間の「神経の伸び方」を正しく導くことが、最大の予防策となります。


2. 【最重要】回復を妨げる「やってはいけないこと」

「早く治したい」という焦りからくる行動が、実は神経の混線を助長し、後遺症を悪化させる最大の原因になります。ここが最も強調したいポイントです。

× 強力な顔の運動(百面相)

無理やり目をギュッと閉じたり、口を大きく動かしたりする筋トレは厳禁です。無理に動かそうとすると、脳から強力な信号が送られ、神経が誤った方向へ伸びやすくなります。これが病的共同運動を引き起こす引き金となるのです。

× 低周波治療(電気刺激)

顔に電気を流して無理やり筋肉を動かす治療は、表情筋を一塊にして収縮させてしまいます。これは神経の混線を招くだけでなく、顔のこわばり(拘縮)を強めるため、現在の医学的知見では、後遺症を助長する可能性があるため推奨されていません。


3. 【実践】今から始めるべき正しいケア

神経が静かに再生するのを待つ間、私たちがすべきことは「鍛えること」ではなく、筋肉の「環境を整えること」です。

① 温める(温熱療法)

蒸しタオルなどで顔を優しく温め、血流を改善しましょう。これは次に行うマッサージの効果を高める準備運動にもなります。

② 優しくマッサージ(筋伸張マッサージ)

麻痺した筋肉は動かないことで縮こまり、固まっていきます(拘縮)。これを防ぐため、手を使って筋肉の走行に沿って優しく「伸ばして」あげましょう。

  • 頬・口: 頬の内側に親指を入れ(または外から)、筋肉をほぐすように中から外へ伸ばします。
  • 額・目: 眉を上げたり、目を外側に広げたりして、皮膚ではなく深い筋肉をストレッチするイメージで行います。

③ 「目を大きく開く」練習

目を閉じる筋肉(眼輪筋)が縮まないよう、黒目を大きく見せるイメージで目を見開く練習をします。これは顔面神経ではなく、まぶたを持ち上げる「動眼神経」を使う動きなので、後遺症を悪化させることなく目の周りの柔軟性を保つことができます。


4. 動き出してきたら(発症3〜4ヶ月以降):脳の再学習

神経がつながり始め、少し顔が動くようになったら、トレーニングの内容を切り替えます。

鏡を使い、「ゆっくり」「小さく」動かす練習をしてください(ミラーバイオフィードバック)。口を動かす時に、目が一緒に閉じていないか鏡で厳密に確認します。もし目がピクッと動いたら、そこで動きを止め、混線が起きない範囲で丁寧に動かす。これを繰り返すことで、脳に「正しい配線」を再学習させていきます。


5. まとめ:焦らず、長い目で取り組むために

発症からの数ヶ月は「待つ勇気」と「動かさない勇気」が試される時期です。

たとえ後遺症の兆しが出たとしても、現代医学には「ボツリヌス毒素(ボトックス)治療」のように、筋肉の緊張を緩めて症状を調整する有効な選択肢が確立されています。将来の選択肢は必ず残されています。

数値や現在の状態に一喜一憂せず、まずは今日できる「優しいケア」を積み重ねていきましょう。その積み重ねが、将来のあなたの自然な表情を守る土台となります。

顔面神経麻痺の鍼灸外来

顔面神経の状態を、耳の反応を通して客観的に捉えるための方法です。

アブミ骨筋反射を測定する様子

顔面神経の反応を確認する検査の一例

「病院での治療は終わったけれど、顔の動きが戻らない」

「後遺症が残らないかが心配」

私たちはそうした不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。

当院では、アブミ骨筋反射を確認します。顔面神経は、耳の奥にある小さな筋肉(アブミ骨筋)にもつながっています。 音に対するこの筋肉の反応を確認することで、顔面神経が刺激に反応できる状態かを知る重要な手がかりになります。

この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。

参考文献

この記事は、以下の資料に基づき作成されました。

  • 顔面神経麻痺のリハビリテーション(医歯薬出版株式会社)
  • 顔面神経障害(中山書店)
  • 鍼灸臨床メカニズム最新科学(医歯薬出版株式会社)

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この記事を書いた人

院長 / 吉池 弘明

頭の中は、つねに愛する家族と鍼治療のことでいっぱい。耳鼻科疾患治療への探究心が強く、日々新たな治療法を模索する「はり・きゅうの日生まれ」62歳。お医者様とは違った角度からの聴力検査と全身検査を取り入れ、のべ25万人を検査。全国から来院する患者さんへの治療成果を上げている。

院長 / 吉池 弘明

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頭の中は、つねに愛する家族と鍼治療のことでいっぱい。耳鼻科疾患治療への探究心が強く、日々新たな治療法を模索する「はり・きゅうの日生まれ」62歳。お医者様とは違った角度からの聴力検査と全身検査を取り入れ、のべ25万人を検査。全国から来院する患者さんへの治療成果を上げている。

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